メタバースは「ひとり何役」にもなれる新しい経済の世界
ゲーム画面のような空間で、アニメキャラのようなアイドルがライブコンサートを開く。それを見て盛り上がるファンもみんなアバター(分身)。コンサートの翌日には、仮想空間上の学校に行って、アバターの先生から授業を受ける。
そんな生活が、「メタバース」の世界では早くも現実になろうとしています。
メタバースとは「超越」を意味する「メタ」と「世界」を意味するユニバースの「バース」を掛け合わせた造語。一般的には3次元の仮想空間を指します。
専用ゴーグルなどを使えば、まるでユーザー自身が仮想空間の中にいる感覚になります。アバターを仮想空間の中で動かして遊ぶゲームなどエンターテインメント分野や教育での活用が広がっています。
東京大学は今年10月、中高生や社会人を対象にした工学分野の教育の場として「メタバース工学部」を設立しました。
メタバース文化の識者として政府や国連関連の会合にも招かれている「バーチャル美少女ねむ」さんは、多くの時間をメタバース上のアバターとして過ごします。昼間は普通の会社員ですが、メタバース上では音楽イベントを開き、本を出版するなど幅広く活動しています。「ひとりの人間のなかにいくつもの経済主体をつくれる。それが画期的」とねむさんは言います。
個人がクリエーターとして力を示す動きは世界的な潮流です。米調査会社ガートナーは、26年には4人に1人が仕事や学習、交流などのため少なくとも1日1時間をメタバースで過ごすようになると予測しています。3次元空間を動き回り、自分のクリエーティブな才能を見つける機会が増えるかもしれません。
また、コロナ禍により対面でのコミュニケーションが難しくなったことで、観光や製造業などのビジネス分野での活用も増えています。
凸版印刷は商業施設や観光地などを仮想空間に構築するサービスを提供しています。大和ハウス工業は仮想空間上で住宅の見学が可能な「メタバース住宅展示場」を始めました。ドイツの自動車メーカー・BMWはメタバース上に本物さながらの工場を作り、現実に車を生産するためのシミュレーションをし始めました。
ある調査によれば、世界のメタバースの市場は2022年の474.8億ドル(約6.4兆円)から、2030年には6788億ドル(約91兆円)と、14倍にも膨らむ可能性があるそうです。国内市場でも2021年度に744億円だった規模が、26年度には1兆円を超える予測もあります。
もちろん課題もあります。誰もが自由に活躍できるメタバースの実現には、膨大なデータのやり取りをスムーズに行う仕組みなどを整えなければなりません。また、ねむさんによれば、メタバース内は安全、手軽にお金をやりとりする仕組みもまだ整っていないそうです。
メタバースの世界は日々広がり、参加する人も増えていくでしょう。そこで何が起こり、どんな問題があるか。それらを伝える「アバター記者」も必要になるかもしれませんね。
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